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Kento Koumura (裄乃由紀野)によって2006年〜2010年にかけて公開された記事のアーカイブです。

Adobeの歴史がここにある「The Adobe Story」

The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-

Wikipediaで「DTP」の記事を見つけた時は驚いた。自由参加型の常識を裏切る記事の高いクオリティ、そして記された激動の歴史は強く印象に残っている。出版業界を大きく揺るがす事となったApple/Adobe/Aldusの存在。革命の鍵となるPostScript。いかにしてDTPは標準となったのか?を丁寧に解説して「秀逸な記事」にも選ばれてる。これはオススメ。

で、DTPの発展について気になっていたらまた図書館で見つけたのが「The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-」。著者はパメラ・フィフナー(Pamera Pfiffner)。翻訳は新丈径。監修は井上務。2003年12月発行。定価5,775円。出版社はアスキー。ISBNは4-7561-4375-X。白で覆われた表紙とエンボスの題名が何気に高級っぽい。

結論:高いけど中々内容が深い。歴史に興味のある方は是非。

Adobeの始まりはPostScriptの始まり

画像関連ソフトで有名なAdobeの始まりは、意外にも二人の数学者からだった。一見関係ないと思われがちな数学と美術を繋げる一つのアイデア、それが「機種に依存しない印刷用プログラミング言語PostScript。現在のコンピューター事情からは全く想像できないけれど、1985年にそれが発表されるまでは「希望通りのフォントで書類を印刷する」「並べた通りのレイアウトでページを仕上げる」事すらままならない状況だったらしい。高価な機械と多大な手間がかかる旧来の出版方法ではなく、Macとプリンタとソフトだけで作業ができる。もちろん安価で。常識を覆しAdobeの発展へと繋がる歴史が詳細に記されています。

Adobeって当時はこんなに無邪気だったんですねー。やっぱりベンチャー企業っていうのはこういう無邪気さが欠かせない。その中でAdobeが特徴的なのは凄く明確なビジョンを持つようになったこと。どちらかというと周囲の影響が導いたようでスティーブ・ジョブスも大いに係わっています。「最初は出力センターチェーンを開こうと考えていた」との事ですが、そうなっていたら今の進化は無いはず。

興味を持ったのは、PostScriptという一つの言語からPageMaker/Illustrator/Acrobatへと広がっていったこと。一つのコア技術が形を変え広がる様には何か感慨深い物を感じます。PostScript関連でフォントの話題も多いのがポイント高し。

アプリへの転換と買収劇

Adobeの次なるステージは、デジタルイメージングでさらなる革命を起こすこと。限界の見えていたPostScriptに替わる新たな領域へ。それはPostScriptが出版界を変えた様に、Photoshopは写真界に革命をもたらし、Premiereは映像界に進化を促すこととなる――技術によってクリエイターを開放する、凄いじゃないですかAdobeって。今使っているソフトにこんな思いが詰まっているなんてなんだか素敵。

で、ここで重要なのがPhotoshopもPremiereもAdobe生まれでは無いという事実。Adobeの歴史は買収の歴史でもある訳ですね。様々な可能性を取り入れて大きくなった……みたいな感じか。実際買収した後に切り捨てられるソフトも多々ある訳ですが、何だかんだと領域を広げコンシューマー市場にも参入しAdobeは急激に大きくなっていきます。

変化と再始動、そして次の10年へ

しかし、そんな発展は過ぎ去りWebの流れAdobeを襲うのです。Adobeの考える「外見と中身の統合」とは正反対の思想ゆえAdobeは苦戦を強いられます。更に重なるのはどんな企業でも起こる内部体制の腐敗や派閥抗争。製品戦略の迷走と株価の低迷、そしてライバルのQuarkによる買収騒動……

買収騒動によって社内の意識には大きな変化が。「あんなヤツらに乗っ取られてたまるもんか。ヤツらをこてんぱんにしてやろう――」打ち出されたプランは内部構造の再編成と製品戦略の明確化、そしてAcrobatとPDFを新たなコア技術として発展させること……

Acrobatから広がるビジョンには中々感心させられるものがある感じ。いやぁPDFの可能性って広いものですね。まあ私はあくまでセマンティック・ウェブだと思ってるけど。Web上でAdobeが主役となるのはまだ遠いような気がしてならない。

まとめ

2003年12月発行ですからCreative Suite以降の製品は載ってませんし、その後のMacromedia関連も一切載っていません。それでもAdobeの企業風土を知るには最適なのではないでしょうか。二人の数学者の出会いから現在に至るまで「Adobe Systems」の全ての歴史がここにあります。歴史本として、また起業物語として良く出来てると思いました。

さあ気になる方は図書館の開館時間を調べて……なのですが、「出かけるのは面倒」「近くの図書館に無い」という方はamazonへ。やっぱり高いけど。元となった英語版も売ってます。

The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-
The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-

Inside the Publishing Revolution: The Adobe Story
Inside the Publishing Revolution: The Adobe Story