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進化論のトリビア系?「通勤電車の人間行動学」

「通勤電車の人間行動学」

デザインとは、コミュニケーションを科学することである。

……という事を知るずっと前から、人間の行動に隠されたロジックには興味がありました。タイトルの「通勤電車」には「あー、やっぱりそう来たか。確かに通勤電車ならじっくり人間観察できるよなぁ」と感じたのね。とりあえずロクに確認せずに借りてみたはいいものの、結構方向性としては違った向きを向いてるみたいで、そこのギャップがまた興味深かった。「通勤電車の人間行動学 男がきれいになる時代・女がかわいくなる時代」、著者は小林朋道。1999年10月発行。定価1,680円。出版社は創流出版。ISBNは4-915796-29-9。……最初「学会系か?」と疑ったのは秘密。

注記:内容の真偽や正確性については保障できません。あくまで「読んだ本のまとめ」として書きます。

男女の性差は遺伝子の戦略?

まず、「腕時計を付けている女性」をイメージしてください。その文字盤は手首の内側(手のひらの方)を向いてはいませんか?

……実はこれ、生物学的に正しいんだそうです。「時刻を確認する」という動作の中で、外側に付ける男性は「肘を外側に張り出す」ように、内側に付ける女性は「肘を体に寄せる」ように動きますよね?(試してみると分かりやすい)この動作は男女の身体的な構造差、つまり「攻撃性を出すか隠すか」という選択に基づいている、というのです。男性の声質や言葉使い、新幹線や建設機械といった幼児の玩具、はたまた肩を強調する江戸時代の裃や世界各国の軍服までがこの「攻撃性の表出」によって、また女性の長髪やルーズソックス、更には会話の内容までがといったものが「攻撃性の隠蔽」によって作られたもの、とこの本は解説します。

しかし、これだけでは単なる思いつきにしか過ぎません。何か根拠が無いと説得力ゼロですね。そこでこの本は「利己的遺伝子」を持ってきました。思いっきり噛み砕いて説明すると「遺伝子は自らのコピーを増やそうとする」という仮説です。従来の「生物は遺伝子によって子孫を残す」を逆転させて「そもそも遺伝子が生物を利用してきた」という概念ですね。もちろん遺伝子には意思などありませんが、ランダムに起きる突然変異によって「コピーを残しやすい遺伝子が(その遺伝子を持った生物が)より多く生き残ってきた」とする考え方には結構説得力があります。

つまり、男性が攻撃性を出すこと、女性が攻撃性を隠すことは「異性に魅力的に思わせる」という繁殖戦略の一つ、とするのです。人類が90%以上を過ごしてきた狩猟採取生活の中で、その環境に適応した遺伝子が生き残び、戦略としての性差が生まれ、それが「腕時計は外側か内側か」に繋がる……視点としてはかなり面白いです。特に排卵隠蔽の考察には思わず「ほえ〜〜」となってしまいました。

思考の発展

この本のポイントとしては、やはり「通勤電車」でしょう。

通勤電車というのは非常に公共性の高い場所です。そこで行われる様々な人々の様々な行動というのは、見落としてしまうかそもそも気付かないかのどちらかでしょう。しかし、筆者はこの通勤電車という場所をかなり注意深く観察して様々な行動に着目、行動学へと思考を発展させています。この着眼点と根気は結構凄い。

これ、話題がかなり広い範囲に渡っているんですよ。服飾/言語/流行/精神/環境といった分野を行動学に関連付けていく、そういう所が。一例を挙げましょうか?以下目次から抜粋。

  • 女は男より目が悪い!
  • 男の子はクルマ、女の子は人形を愛する理由
  • 公園で打ち解けない父親たち
  • 男が足を広げて座るのも遺伝子のなせる業
  • なぜ女性は男性より髪を長くするのか
  • 言葉を武器に女性を誘惑?
  • 男より女が美しいのはなぜ?
  • 電車の中で眠くなるのはなぜ?
  • 運動場のトラックが左回りなのはなぜ?
  • 親切を目撃するとうれしくなるのはなぜ?
  • 錯覚を進化心理学的に解釈すると
  • 拒食症・過食症のメカニズム
  • 携帯ブームの裏に"ミーム"あり
  • 「不幸の手紙」は典型的なマインドウィルス

また、自らの説を裏付けるために様々な文献を使っているところも気に入りました。こういう発想は「そんな思いつきで――」と思われがちですが、過去の文献を使うことで「なるほど――」と思わせる力は強い。

まとめ

内容としてはあくまで仮説に過ぎませんが、結構面白く構成された本です。トリビア系が好きな方なら楽しく読めるのではないかと思います。

関連するキーワードとしては、 動物行動学社会生物学性淘汰利己的遺伝子ハンディキャップ理論などがありますね。

通勤電車の人間行動学―男がきれいになる時代、女がかわいくなる時代
通勤電車の人間行動学―男がきれいになる時代、女がかわいくなる時代